矯正歯科治療
歯を無理なく動かし、よい咬み合わせを求めます
歯の動くメカニズム
私たち矯正歯科医が「歯は動きます」と初診の際に説明すると、不思議そうな顔をされることがあります。しかし、歯は、私たちが知らないうちに、少しずつ新しい骨と古い骨が置き換わっています。それは細胞の新陳代謝と同じしくみですが、矯正歯科治療で歯を動かすのは、このしくみを活用しているといってよいでしょう。つまり歯が歯槽骨の中で動くのは、自然のメカニズムであり、これを上手に活かすと、矯正装置をつけて弱い力を加えることで、歯を無理なく目的の位置に動かすことができるのです。
ですから矯正歯科治療とは、ひと言でいうと「矯正装置と歯が動くメカニズムによって、歯を少しずつ動かしたい方向に移動させ、よい咬み合わせときれいな歯並びをつくる治療」といってもよいでしょう。
もし、美しさだけを求めるなら
患者さんの来院の理由をたずねると、「歯並びがデコボコしている」「上の前歯が出ている」「歯の間にすき間がある」など、やはり見た目の悪さを直したいという理由が圧倒的多数です。もちろん「咬み合わせが逆で、きちんとものが咬めない」「舌足らずで発音が不明瞭」といった機能的な悩みの場合もあります。
悪い歯並びが及ぼす健康への影響が認識されるようになった結果、機能面の不都合を治療したいという希望が、どんどん増えてきているのは事実です。
見た目の改善だけが治療の目的なら、比較的短期間でできます。例えば歯が出ているのを治したいというとき、歯根を残して歯冠部を切ってしまい、差し歯にする審美的な治療法もあるでしょう。しかし、この方法では歯根部に不自然な力が加わるため、歯の寿命が短くなることもあります。それらは、私たち矯正歯科医がめざす、歯そのものを大切にする治療とは根本的に異なります。私たちは咬み合わせ全体から治して、きれいな歯並びを実現したいと考えているのです。
見た目と機能――2つの悩みの解決
矯正歯科治療は、治療期間の短さをアピールするわけにはいきません。けれども、心身の健康増進を目的にして行うのならば、あごなどの成長・発育を予測した上で、健康な自分の歯をゆっくり、着実に動かしてゆくのが一番だと思います。
矯正歯科治療とは何かを、もう一度整理してみましょう。
- (1)
- 歯は、弱い力をかけると動くものです。歯の上部だけでなく、根も動きます。
- (2)
- 矯正歯科治療は、歯が動くというメカニズムを利用して歯の表面に矯正装置をつけ、弱い力をかけてデコボコしている状態を整えたり、出ている歯を引っ込めたりします。
- (3)
- 同時に、土台になるあごが前後左右にずれていた場合には、そのずれも治すことが目的になります。
- (4)
- 装置によって歯が動くスピードは、1ヵ月に1mmほどと考えられています。そのために時間がかかりますが、きちんと移動させることができ、差し歯などよりも、口元の形と歯とのバランスをよくすることができます。
- (5)
- 咬み合わせをよくしてしっかり咬める状態をつくり、美しさと同時に、飲み込む、発音などの機能も十分に発揮できるようにします。
見た目と機能という両面から患者さんの悩みを解決し、健康に貢献するのが矯正歯科治療です。